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イケメンのおかげで人生楽しい

花とアリス

花とアリス」2004

出演:鈴木杏 蒼井優

監督:岩井俊二




幼馴染みの女子高生、花(鈴木杏)とアリス(蒼井優)。

花は中学生の時電車の中で見かけていた憧れの先輩を追いかけて、同じ高校に進学、落語研究会へ入部。ある日先輩が頭をぶつけて倒れるところに遭遇、咄嗟に「あなたは記憶喪失、わたしに告白したことも忘れてしまった」と嘘をつく。

ある日花は、自宅のPCに中学生時代盗み撮りした先輩の通学中の写真があることを知られてしまう。そこで、

「あなたは以前有栖川徹子という女の子と付き合っていたが、わたしのことを好きになった。この写真はストーカー化した有栖川徹子が脅迫として送り付けてきたもの」と嘘を重ねる花と、それに付き合って嘘を重ねていくアリス。

恋愛と友情を通じて揺れ動く花とアリスの物語。




花とアリス

花:「先輩」のことが好きで嘘をついてしまう。猪突猛進型。自分がつき始めた嘘のせいでアリスに惹かれていく先輩をどうにか引き止めたくてどんどん嘘を重ねていく。

たくさんの花に囲まれた家に住んでいる。


アリス:花の幼馴染み。両親は離婚しており、母親はアリスの存在を隠して男と付き合っている。芸能事務所にスカウトされるが、オーディションには受からない日々が続く。

花の嘘に付き合っているだけだったのに、次第に先輩に心動かされるようになる。


花がどちらかというとばたばた動きがあって、ともすればガサツな印象を受ける。

わがままで自分勝手に見えて途中で一回嫌いになったけど、高校生成り立ての女の子なんてきっと皆わがままで自分勝手だ。

かといってアリスがおしとやかなお嬢さんというわけではない。自由で人を振り回すようなところがあるのに、それでも花と違うしなやかさがある気がするのは劇中垣間見える家庭環境の影響、または蒼井優の持っているそれかもしれない。


恋愛を取るか友情を取るか、という関係ではない気がする。多分ふたりの中でどうしたって捨てられないのが花でありアリスだ。

どれだけ頭に来ても悔しくても、絶交すると言ってみたって顔を見れば全部許してしまう、そういうふたりだ。



■宮本先輩

花が憧れる先輩。

花に「あなたはわたしに告白したことを忘れている」と言われるが、デートを重ねても自分が花のことを好きになるとは思えず不信感を抱く。反対に、元カノと言われたアリスに恋心を抱いていく。


わたしが女だからかもしれないけどいらいらする。花も悪いけどお前がはっきりすればいい話だろ?!って思ってしまう。なよなよしてて何を考えてるか分からない雰囲気があって気持ち悪い。あくまで役の話です!



■女の子と男の子

岩井俊二は女の子同士の花園を撮るのがきっととても上手い人だ。

花とアリスの通うバレエ教室には女の子達が作り出す独特の空気がある。アリスとアリスの母親とその彼氏が鉢合わせする場面も、花とアリスと先輩が三人でいる場面も、常に男は異分子だ。女の子だけで完結してしまいそうな世界の中に投じられた異分子。

男がいると、この柔らかくて美しい世界を壊してしまう、そんなふうに思わせる。



■音楽と映像

まず音楽が好み。弦楽器とピアノの音楽は華やかさや派手さはないんだけと、それが映像に良く合ってた。

映像はずっとセピアっぽいというか、全体的に色素が薄くて、だからこそ花の家の花壇とか木々の緑、風車の色彩がとても鮮明に映る。



■雑感

花のことが嫌いになりかけるけど、最後30分で一気に好きになる。自分の嘘を告白しながらぼろぼろ涙を流す花のことがどうしても憎めなくなってしまう。

綺麗な泣き方じゃない。

頬は引きつってるし、眉間に皺は寄ってるし、歯をむき出しにして食いしばる泣き顔は全然女の子らしくなくてみっともないんだけど、それがただただ愛おしい。

多分岩井俊二は変態だ。

だって女の子の泣き顔をこんなに美しく撮れるんだもの。


それからラスト、アリスが雑誌のオーディションで踊るシーン。もうここだけでもいいから観て欲しい。

アリスの動き指先一つとっても目が離せなくて、ただただ美しくて泣いてしまう。

上がる足、伸びた腕、ふわふわ揺れるスカート、さらさらの黒い髪が空に踊って、派手ではないのにどうしても惹き付けられた。

多分その場にいる人間と観客が同調する瞬間。


アリスが先輩に自分達の想い出として語ったことは多分すべて父親との想い出だ。

公園でボートに乗って帽子を落としたのも、ところてんを食べたのも、海辺でトランプしたのも、縄跳びも、ハートのエースを探すゲームも。

「ハートのエースを見つけた人が勝ち」というゲームで、花に「先輩のことちょうだい」と言ったのは「先輩」が欲しかったわけじゃない。彼女が欲しかったのは父親と、父親ととの想い出だ。


アリスが先輩に父親との想い出であるトランプを託すシーン。アリスの顔の輪郭や髪の毛が夕陽に透けて、本当に、本当に美しい。

溶けてしまいそうな、という表現が良く似合っていた。



■さいごに

花のことを嫌いにならなくてよかった。

そう思えてよかった。

男の人には理解出来なそう。

徹頭徹尾女の子のための世界。