またお会いしましたね

イケメンのおかげで人生楽しい

花とアリス

花とアリス」2004

出演:鈴木杏 蒼井優

監督:岩井俊二




幼馴染みの女子高生、花(鈴木杏)とアリス(蒼井優)。

花は中学生の時電車の中で見かけていた憧れの先輩を追いかけて、同じ高校に進学、落語研究会へ入部。ある日先輩が頭をぶつけて倒れるところに遭遇、咄嗟に「あなたは記憶喪失、わたしに告白したことも忘れてしまった」と嘘をつく。

ある日花は、自宅のPCに中学生時代盗み撮りした先輩の通学中の写真があることを知られてしまう。そこで、

「あなたは以前有栖川徹子という女の子と付き合っていたが、わたしのことを好きになった。この写真はストーカー化した有栖川徹子が脅迫として送り付けてきたもの」と嘘を重ねる花と、それに付き合って嘘を重ねていくアリス。

恋愛と友情を通じて揺れ動く花とアリスの物語。




花とアリス

花:「先輩」のことが好きで嘘をついてしまう。猪突猛進型。自分がつき始めた嘘のせいでアリスに惹かれていく先輩をどうにか引き止めたくてどんどん嘘を重ねていく。

たくさんの花に囲まれた家に住んでいる。


アリス:花の幼馴染み。両親は離婚しており、母親はアリスの存在を隠して男と付き合っている。芸能事務所にスカウトされるが、オーディションには受からない日々が続く。

花の嘘に付き合っているだけだったのに、次第に先輩に心動かされるようになる。


花がどちらかというとばたばた動きがあって、ともすればガサツな印象を受ける。

わがままで自分勝手に見えて途中で一回嫌いになったけど、高校生成り立ての女の子なんてきっと皆わがままで自分勝手だ。

かといってアリスがおしとやかなお嬢さんというわけではない。自由で人を振り回すようなところがあるのに、それでも花と違うしなやかさがある気がするのは劇中垣間見える家庭環境の影響、または蒼井優の持っているそれかもしれない。


恋愛を取るか友情を取るか、という関係ではない気がする。多分ふたりの中でどうしたって捨てられないのが花でありアリスだ。

どれだけ頭に来ても悔しくても、絶交すると言ってみたって顔を見れば全部許してしまう、そういうふたりだ。



■宮本先輩

花が憧れる先輩。

花に「あなたはわたしに告白したことを忘れている」と言われるが、デートを重ねても自分が花のことを好きになるとは思えず不信感を抱く。反対に、元カノと言われたアリスに恋心を抱いていく。


わたしが女だからかもしれないけどいらいらする。花も悪いけどお前がはっきりすればいい話だろ?!って思ってしまう。なよなよしてて何を考えてるか分からない雰囲気があって気持ち悪い。あくまで役の話です!



■女の子と男の子

岩井俊二は女の子同士の花園を撮るのがきっととても上手い人だ。

花とアリスの通うバレエ教室には女の子達が作り出す独特の空気がある。アリスとアリスの母親とその彼氏が鉢合わせする場面も、花とアリスと先輩が三人でいる場面も、常に男は異分子だ。女の子だけで完結してしまいそうな世界の中に投じられた異分子。

男がいると、この柔らかくて美しい世界を壊してしまう、そんなふうに思わせる。



■音楽と映像

まず音楽が好み。弦楽器とピアノの音楽は華やかさや派手さはないんだけと、それが映像に良く合ってた。

映像はずっとセピアっぽいというか、全体的に色素が薄くて、だからこそ花の家の花壇とか木々の緑、風車の色彩がとても鮮明に映る。



■雑感

花のことが嫌いになりかけるけど、最後30分で一気に好きになる。自分の嘘を告白しながらぼろぼろ涙を流す花のことがどうしても憎めなくなってしまう。

綺麗な泣き方じゃない。

頬は引きつってるし、眉間に皺は寄ってるし、歯をむき出しにして食いしばる泣き顔は全然女の子らしくなくてみっともないんだけど、それがただただ愛おしい。

多分岩井俊二は変態だ。

だって女の子の泣き顔をこんなに美しく撮れるんだもの。


それからラスト、アリスが雑誌のオーディションで踊るシーン。もうここだけでもいいから観て欲しい。

アリスの動き指先一つとっても目が離せなくて、ただただ美しくて泣いてしまう。

上がる足、伸びた腕、ふわふわ揺れるスカート、さらさらの黒い髪が空に踊って、派手ではないのにどうしても惹き付けられた。

多分その場にいる人間と観客が同調する瞬間。


アリスが先輩に自分達の想い出として語ったことは多分すべて父親との想い出だ。

公園でボートに乗って帽子を落としたのも、ところてんを食べたのも、海辺でトランプしたのも、縄跳びも、ハートのエースを探すゲームも。

「ハートのエースを見つけた人が勝ち」というゲームで、花に「先輩のことちょうだい」と言ったのは「先輩」が欲しかったわけじゃない。彼女が欲しかったのは父親と、父親ととの想い出だ。


アリスが先輩に父親との想い出であるトランプを託すシーン。アリスの顔の輪郭や髪の毛が夕陽に透けて、本当に、本当に美しい。

溶けてしまいそうな、という表現が良く似合っていた。



■さいごに

花のことを嫌いにならなくてよかった。

そう思えてよかった。

男の人には理解出来なそう。

徹頭徹尾女の子のための世界。







悪童


とある場所に集った5人の男。どこにでもいる、ごく普通の男たち。だが、彼らにはやらなければならないことがあった。

それがどんなに恐ろしい事であってもー。

5人は幼馴染。みな、悪童だ。


公式サイトより引用



FC入っといて良かったと思った。東京外して申し込んだら名古屋が引っかかったので初ぼっち遠征だった。

以下ネタバレ多分に含む。


登場人物

紺野治/こんちゃん  (森崎博之)

巻光博/まきくん     (安田顕)

吉村雄太郎/チャック  (戸次重幸)

江口幸一/エロっち   (大泉洋)

西崎直樹/西くん      (音尾琢真)


パンフ見てああこういう名前だったのかって思った。劇中ではあだ名しか出てこない。

公式の煽り文を見た段階で結構重い話かなって予想していたけど、まぁそこそこ重くて、でも後味悪い系の話ではないかな。


彼ら5人は中学校の同級生で卓球部の仲間。

舞台は取り壊しが決まっている地元の娯楽施設(ゲームセンターと銭湯とフードコートが一緒になってるやつ)に、チャックが立てこもっているところから始まる。セットは取り壊し間近の田舎の娯楽施設を再現しているので、ごちゃごちゃしていて極彩色。寂れて人気のない田舎の雰囲気が良く出ていたなと思う。

立てこもっているチャックを説得していたのが市役所職員になった西くん。チャックの要求はかつての仲間を全員連れてくること。続々と皆集まってくるけれど、"とん平"がいないと指摘するチャック。とん平とは連絡がつかなかったと言う西くん。市役所らしい水色の上着がめっちゃ似合う琢ちゃん。


子供の頃、いつもこの場所で皆遊んでいたけれど、親に止められて自分だけ来れなかった。卒業したら遊びに来ようと約束したのに誰も来てくれなくて、同窓会の手紙は全部無視されて、こうでもしないと集まってもらえないと思ったと言うチャック。

付き合っていられないと帰ろうとするけれど、チャックが何かの病気にかかっていることを知り、付き合うことにする。


ここで皆でエアボウリングするのがかわいい。最初はとても嫌な顔をしていたのに最後は一番真剣にやってる巻くんと、ストライク出してキャッキャはしゃぐ西くん紺ちゃんエロっちと、その輪に入れてもらえなくて拗ね出すチャック。学生時代の関係性が見えたし、NACSの関係性を見ているみたいで微笑ましい。あとエア卓球もやるのだけど、演出がマギーさんなのでプロジェクションマッピングとかたくさん使って出演者の紹介をここでする。スタイリッシュ。


最初は楽しくはしゃいでいたけど、当時の思い出を語っている内に嫌われ者の先生、「鴨田」のことを思い出す。

生徒に体罰を加えていたこと、エロっちは殴られて鼓膜が敗れたこと、"とん平"をいじめていて、それが原因で彼は自殺を図ったこと。


建物を包囲している警察官の中に鴨田そっくりの警察官を見つけて、「あいつ鴨田じゃねぇか?」「チャックの望みを叶えてやったんだから、今度は俺に付き合ってくれ。鴨田殺そうぜ」と言う巻くん。


それに便乗したエロっちが袋を集めてぐるぐる巻にした等身大の大きさのものを持ってきて、巻くんと二人で鉄パイプで叩きまくる。

ここでちょっとドキッとしたのは、これが「演劇上人に見立てたもの」なのか、「舞台中でエロっちが作った鴨田(仮)」なのか分からなかったところかな。

「エア殺人なんて不謹慎か?」って巻くんのセリフがなかったら多分ドキドキしたままだったと思う。


・本当に病気(ガンだったかな)にかかってたのは西くん。親に止められて皆と遊べなかったのも、卒業後また遊ぼうねって約束をしたのも西くん。チャックは何も言わない西くんの代わりに皆を集めて思い出を作ろうとした。


・とん平が自殺を図った原因は鴨田ではなく自分達の誰かにある、という紺ちゃん。病室で「卓球部の誰かが原因か?」という問に何も答えなかったとん平。


・チャックの教科書にパラパラ漫画を描いてお金を取っていたのはエロっち。

ゴミクズと呼んで足の悪いとん平にうさぎ飛びや無茶な練習をさせたのは巻くん。

上履きを隠して色んなところにメモを残して探しさせて、いつも遅刻させていたのはエロっち。

優しくするのが面倒になって無視していたのは紺ちゃん

それを全部分かっていて、卓球部辞めてもいいよと言えなかったのは自分。


・とん平を一度だけ見かけたことがある。足を引きずって、新宿でホームレスをしていた。彼をそういう風にしたのは自分達で、自殺に追い込んだのは自分達。


・結婚はうまくいかなくて、会社もあまり上手くいっていない巻くん。

もう何年も絵なんて描けなくて、女のヒモやりながらなんとか生きてるエロっち。

毎日普通で平凡で幸せなはずなのに、時々自分が誰なのかわからなくなって逃げ出してしまいたくなる紺ちゃん。 

紺ちゃんの良かったなと思うのは、普通の平凡で幸せな家庭っていうのがリーダーにとっても合っていたこと。それが果てしなく続くことに、疲れてしまって遠くに行きたくなるって、きっと誰にでもあると思う。

会社経営してる巻くんや画家で自由に生きてるエロっちより贅沢な悩みかもしれないけど、きっと誰にでもある悩みは紺ちゃんのそれだった。



・死にたいとかそんな贅沢言わないで欲しい、とチャック。


・皆一発ずつ殴りあっておあいこ。自分達がとん平にしたことを忘れないでくれと言う西くん。


・立ち去ろうとした時、思い出すエロっち。


・教科書に落書きしてくれと頼んできたのはとん平で、お金を払い出したのもとん平自身。彼が飛び降りた屋上からは、女子更衣室が見えて、いつも二人で覗きをしていたこと。足が悪い彼はいつもエロっちに支えられて覗きをしていたけれど、その時期はエロっちがずっと学校をサボっていて、我慢ならなくなった彼がひとりで覗きをしようとして身を乗り出したところを巻くんが目撃。

それに動揺してバランスを崩して落ちたのであろうこと。


遺書のように残されていた手紙は、ある場所を指し示すメッセージだったこと。


・そのメッセージの場所が今正に自分達のいる場所だと気付いて捜索を始めると、ひとりひとりに宛てた手紙が見つかる。


・父親のように厳しく優しくしてくれた紺ちゃんに感謝していること、渾名をつけてくれた巻くんに感謝していること、エロっちの落書きをいつも楽しみにしていたこと、チャックにおもち食べ過ぎないでね!、卓球部に誘ってくれてありがとう西くん。


・最後に巻くんが携帯のニュースでとん平がブロードウェイで大成功して今度日本に帰ってくること、ホームレス役をやるにあたって新宿でホームレスになりきっていたことを読み上げて5人で笑い合う。



お話としては綺麗にまとまっていて良かったと思うし、役が本当に各々ハマっていたのが何より楽しめた。

ピンクのTシャツ衣装のシゲさん、早い段階で汗かきすぎて首周りが変色。

気になったというかもやもやしたのは終わり方かな。最初に書いた通り後味が悪いわけじゃないけど、「本人がいじめられたと思ってないからいじめじゃない」感が残ったというか、とん平の受取り方がどうだったにせよ西くんに指摘されて項垂れるくらいには自分達が悪いことをしているとかそういう自覚があったんじゃないかなって。

でも本人が気にしてないからまぁいっか、なの?って思ってしまった。

なのでそこはもうちょっとクリアにして欲しかったなぁと思う。

鴨田殺そうぜって言い出す巻くんのほの暗さというか狂気というか、そういうのものは肌で感じて安田さん流石でした。

あと全部見終わって煽り見るとあんまり皆普通じゃないぞ?!ってなる。画家と会社経営者がいる時点ですでに。

彼らのやらなければいけなかったことは、多分過去と向き合うこと。見たいものだけいいように解釈して現状を嘆くばかりで何もしなかった彼らが、蓋をしてなかったことにしていた過去とちゃんと対峙して自分の中に取り込むことでこれからを見つめ直す。

その後を想像するのがすごく楽しい舞台でよかったな。


あと本編アフタートークもメモっておこうと思ったけどどれが名古屋の話でどれがライビュの話か覚えてないので割愛。


そういえば舞台のライビュを初めて見た。

自分の見逃したところが見直せるのは勿論いいんだけど、逆にもう一回見たかった! ってところが写ってなくて焦れったい。






こんばんは!/天邪鬼観劇

こんばんは!

見てる人いないと思うけどごぶさたです!

昨年九月以降の観劇感想を全く書いてないことが判明したので消化したいと思います!!




荒廃した世界、混沌とした時代の中で、無邪気に仲良く“戦争ごっこ”に熱狂するこどもたち。両手を拳銃に見立て、互いの急所を撃ち合ううちに、やがて指先から虚構の弾丸を放つようになる。イマジネーションが生み出したその弾丸は、ホンモノの人間を撃ち殺し、戦車を破壊し、戦闘機を落とす。

大人たちは、こどもたちのイマジネーションを操る能力に注目し、能力開発の為に新たな教育システムを採用する。その為に採用されたのが“演劇”。今やすべての教育機関で、こどもたちは強制的に演劇を学ぶ。ホンモノの“戦争ごっこ”の為に。


天邪鬼公式サイトより引用



柿食う客の舞台は配信含めて何度か拝見しているけど、感想をつけにくいというのが正直なところ。悪い意味ではなく、良い意味で呆気に取られるというか、語彙も情緒も貧困な私には「なんか面白かった」「なんかすごかった」としか言えないのだ。半年前の記憶なのでうろ覚えの部分が多々あるけれど、思い出せる限りのことを書いてみようと思う。時系列はめちゃくちゃ。


・舞台は何らかの原因により国民全てが放射能汚染を受けている世界。主人公は「アマノ ジュンヤ」くん(と、それを取り巻く子供達)。この世界で子供達はイマジネーション、想像力を武器にして闘うことが出来る。

例えば指で作った拳銃で「バーン!」とやったって普通は何も起こらないけど、イマジネーションの力を持った子供はそれで本当に人を撃つことが出来るというわけ。その力が発見されるきっかけがジュンヤくん。


・ジュンヤくんの遊び相手が回ってくることの多かった「ヒヨリ ミズキ」ちゃん。

ある日の戦争ごっこの最中、ジュンヤくんが小さな戦車のおもちゃで彼女の足を轢くとミズキちゃんの足は本当に戦車で轢かれたようにぺしゃんこになってしまう。

この時のミズキちゃん役七味さんの絶叫が聞いてるだけで痛くて耳を塞ぎたくなった。もうホント、思わず自分の足を見てしまうくらい。これ以降ミズキちゃんは左足が不自由で引きずって歩いている。


・「オマ セナコ」ちゃんと、ミズキちゃん、それとジュンヤくんがシンデレラの座をかけてオーディション。最後までトイレを我慢出来た人の勝ち(お姫様はトイレなんて行かないから、とかそんな理由だった気がする)。ジュンヤくんは我慢するどころかその後何日かトイレに行かなかった。

つまりジュンヤくんは身体をイメージ通りに作り替えることが出来る。


・ジュンヤくんの想像力に利用価値が見出された時、日本中の子供達が施設に集められて、想像力のテストを受けさせられた。

想像力を持たない子供達は殺された模様。


・想像力を持つ子供達は、「なりきる」だけでなく、他人の目に見える形でそれを発揮出来る。ミズキちゃんの足がジュンヤくんの想像力でそうなったように、桃太郎のお婆さんになりきれば想像力で大きな桃を呼び出すことが出来るし、狼少年になって狼を呼ぶことも出来る。


・ジュンヤくんは何度尿検査しても内部被曝が認められず、大人や周りの子供から嘘つき、変わり者扱いされる。内部被曝していることが普通で当たり前の世界。





8/29 グッバイ・ガール

グッバイ・ガールを見てきた。
後から調べたら日本初演は20年前。
ぽつぽつと再演されてきた。
もう記憶から抜けてるところとかたくさんあるのでとても偏った感想。ざっくりいきます。


男運ゼロ、元ダンサーでシングルマザーのポーラ。何人目かの彼氏は置き手紙を残してイタリアへ消えてしまった。三人で暮らしていた家に住み続けることになった母娘。しかし部屋の名義人だった元彼は、売れない役者のエリオットに部屋を貸してしまっていた。

アメリカのラブコメ
面白かったけど、最初に出てくる感想はこれ。(私には)共感するところも特になく珍しい展開もないし、まぁそうだよねという終わり方。元々の映画版を見たことがないから今回がどう演出されているのか分からないけど、展開がぽんぽん飛んでて「いつの間にそんなことに?」ってなってしまうところがあった。
時間の都合とかあるんだろうけど。

この主人公ふたり、エリオットが転がり込んできた時点では全く馬が合わない。
娘もいるし男に対して警戒心もある気の強いママと、自由気ままに暮らしたい独り身の男。一緒に住むならここは妥協しましょう、という妥協点が見つけられない頑固なふたり。お互いに「顔も合わせたくない!」状態だった。
のが、いつの間にか娘を挟んで一緒に食卓を囲んでいる。何があった。険悪とは言わなくともいがみ合ってた二人がちゃっかり食卓を共にしているって、見えてないとこで何があったの。

その後の流れはまぁ王道といえば王道で、芝居を酷評されてボロボロのエリオットをポーラが慰めたり、全財産の入った財布をスられて落ち込むポーラにエリオットが家賃光熱費の援助を申し出たりしているうちに、
「あれ?なんかこの人可愛い人だぞ...」
「彼って悪い人じゃないのかも...」
という流れを経て結ばれるんだけど、今度は今まで何だったの?ってくらいにいちゃつきだす。

心身ともに結ばれた翌朝、ポーラが起き出すとキッチンには不機嫌な娘。
「どうしたの?昨日よく眠れなかった?」
「昨日この家によく眠れた人なんているの?」
ここのやり取り、アメリカのホームドラマとかにありそうだなと思った。
で、その後起き出してきたエリオットが「パンでも焼いてよ」みたいなことを言うと、ポーラは突然怒り出す。「何よそれ!可愛かったね、とか、昨日は最高だったよとか言えないの?!いつもこうよ!夜が明けたら私はただのお世話係!」なんて感じに。
正直ぽかんとした。私が経験不足というのも勿論あるけどそれにしたって結構理不尽なキレ方だと思うんだけど。
どうしたら僕と一緒にいてくれる?と尋ねるエリオットに、娘を安心させてほしいと頼むポーラ。
ふたりがそうなればいいな、と願っていたのは娘だったけど、実際にそうなると今までの男と同じように彼が母親を捨てて出ていくのではないかと不安になっている。だから娘の不安を取り除いて欲しい。ポーラに頼まれたエリオットは娘の説得へ。

無事婚約まで辿り着いたと思ったら、エリオットに映画の仕事が決まって2ヶ月カナダへ行くことに。
本当にありとあらゆるレビューで叩かれてた主演なのにこのタイミングで映画の仕事が決まるの?と正直思ってしまった。
新婚旅行も兼ねてすっかり母娘と一緒に行く気になっているエリオットに、自分も仕事が決まったし娘は学校がある、そんな急に行けるわけがないという。
そりゃそうだ。普通に考えたらそうだ。
でもエリオットは違った。
「君にとって人生の優先順位の第一位は結婚だと思ってた、そうかもういいよ!」
発言小町で盛り上がりそうな展開だった。何歳の設定なのか分からないけど、年の差云々という描写がなかったからそこまで年齢が離れていないとして、小学生の娘がいる母親と近い年齢の男の発言としては有り得ないだろうと。
多分観ていて一番気持ちが入ったのはここだと思う。何言ってんだこいつ。

出て行くエリオットを引き止めないポーラ。このまま別れちゃうの?という娘に「彼次第よ」と答える。
結局その晩中にエリオットは家に帰ってきて(飛行機が遅れてて云々と言い訳をしながら)、改めてプロポーズ、ハッピーエンド。


子役の女の子たちはとっても可愛かったし、紫吹さんも歌は勿論華がすごい。岡田さんは初めて拝見したけど歌が上手い。ただわざとなのか息の量が多いのか、本人の役名と紫吹さんの名字がもごついてて「なんて?」っていうことがあったのが気になったというか残念。

それと一幕の最後あたりに、「私もママと同じダンサーになりたい!」と言う娘とそれを止めるポーラの場面があるんだけど、その話がそれきりで終わってしまって特に回収されなかったのも気になった。

振り返ってみても、出演者の質とか音楽とかそういう点はとても良かったと思う。ただ、私にはのめり込んで観たり共感しながら観るものではなかった。というか、感情移入しようとすればするほど正直イライラしてしまいそう。客観的にというか、フィクションだと割り切って観た方が楽しめる。





グッバイ・ガール
2015.8.7~23
東京国際フォーラムホールC
演出 マキノノゾミ
出演 紫吹淳 岡田浩暉 他

7/18,25 女中たち感想

考えても考えても結論が見つからないので思ったことだけとりあえず残しておきます。前後の繋がりとか全然ないです。


「奥様だった」と姉は言う。
奥様だから殺せなかった、とも取れる。
女中というものは奥様を介して存在する」と奥様は言う。この言葉通りだとして、自分を縛る女中という記号を捨てるために奥様を殺そうとした。後半「逃げるって何処に?」と妹が言うように、多分逃げるという選択肢はなかった。頼る相手も逃げる資金もなく、でもここからは抜け出したい。だから凶行へと至った。けれど結局、いざその時になって女中としての自分が勝ってしまった。この人を殺したら自分は形を無くしてしまう、という不安感。或いはもしかして、奥様のことを本能的に必要としていたのかもしれない。ただその場合は好き嫌いというよりは依存だろうなと思う。

女中」という記号を捨てて、一人の女として生きていくために、「女中」を形成する「奥様」を殺す。けれど姉が殺したのは妹。姉は妹殺しを告白する。その中で「ソランジュ=ルメルシエ」という一個人としての存在を実感しているような節がある。つまり、殺す相手が「奥様」ではなかったとしても彼女は女中の記号を捨てられたということになる。
或いは彼女(ら)が目指したのは、奥様の物理的な死ではないのかもしれない。「女中」という記号から逃れる為に、「奥様」という記号を殺した。「ソランジュだかクレールだかの看病をして、自分の肘掛椅子を愛するように女中を愛する奥様」を殺した。そして「顔を上げて背筋を伸ばして歩くソランジュ=ルメルシエさん」は「女中だった女のことをソランジュ=ルメルシエさんと呼んで、その凶暴性に怯えるような奥様」と対等になる。そうすることで彼女は奥様を殺そうとしたのかもしれない。

どこまでが芝居なのか、も気になった。
ラストシーン、クレールがお茶に口をつけた後。奥様がやってきて二人に腰を折る仕草をするのだけど、まるで主演女優が他の出演者にお辞儀をしているようだった。観客は二時間、三人のおままごとを観ていただけで、あの後三人とも何事も無かったように日常に戻るんじゃないかと。私達が考えたあれこれは全部彼女達のおままごとの世界のこと。

劇中劇において、
姉=女中
妹=奥様
という役割が与えられている。その上での姉妹の会話。

姉「ソランジュはあんたなんか大ッ嫌いだった!」
妹「クレール、クレールよ、ソランジュ」
姉「......あぁ間違えた!クレール!」

「クレールはあんたなんか大ッ嫌いだった」という言い方は、クレール以外の人間の言葉のような印象を受ける。いや、戯曲とかそういうものの性質上そういう言い回しなのかもしれないけど。そうなると、ソランジュが演じているのはソランジュ自身じゃないだろうか。
で、この劇中劇においてソランジュ=ソランジュだと仮定した上でこの言葉を聞くと、クレールは死んでいるのじゃないか。見張りとか、もう動けないレベルでぶっ倒れてるとか、そういうこともあるかもしれない。でもそれなら、「大ッ嫌いだった」という言い方はしないんじゃないかと思う。
クレールはソランジュが仕損じた事を責めて「あたしならやれる」と言う。あんたがやらないならあたしがやる、と言えるまで殺したい相手。私だったらそいつの息絶える瞬間を見てやりたいと思うのだ。クレールがその時点で死んでいたとすると、ラストシーンと繋がってくる。
クレールが死んで終わる物語ではなく、クレールが死んで始まる物語。

目覚ましが鳴って、クレールが「また殺すところまでいけなかった」と言う。
でも相手に馬乗りになって背後から首を絞めるところまでいったら、劇としては「殺すところ」まで辿りついている気がする。だってその先に進んだら、相手が本当に死ぬしかないのに。
そういえば、「奥様を通してあたしを殺そうとしている」みたいな台詞があった。例えば最初から、あの劇中劇の終点が奥様を演じる者が本当に死ぬことだったとして、奥様を通してでなければ殺せなかった。奥様を通してだって殺せなかった。狂ったような世界を一緒に生きている、愛しすぎたひとだから。あの劇は奥様を殺すための予行演習であると同時に、奥様役(これがいつも妹の役だったのか、順番だったのかは不明)を殺すための本当の殺人だった。

まぁそうすると、奥様を殺すために何故自分の片割れを殺さなければいけなかったのかということになるのだけどこれはもうお手挙げだ......




ソランジュ碓井×クレール矢崎

個人的にはこちらのペアが好きだった。光と影、月と太陽、朝と夜のように見えて、本質は同じ。そんな印象が残っている。碓井くんのソランジュは神経質で繊細で身を削るように、自分の世界でしか生きていけない人。矢崎くんのクレールは時々熱に浮かされたようになるけれど、それは現実逃避の手段。現実と向き合わなければならないことを知っていて、そしてソランジュを捨てられない。

もうとにかく、神経のすり減っていくというか、どんどん自分の世界でしか生きられなくなっていく碓井くんから目が離せなかった。ラストの告白場面も本当に美しくて、自分だけの世界にいってしまったソランジュというのがとてもハマっていた。真面目で卑屈で、でも妹に対しては妙に自信家。「あたしの妹に戻って」の言い方が気持ち悪いくらいに甘くて好き。どうでもいいけど顔が小林且弥に似てる。男性らしさとかワイルドさを削ぎ落とした小林且弥って感じである。

矢崎くんのクレールはとてもエネルギッシュで、所謂しっかり者の妹というか、姉を支える妹。碓井くんがどんどん現実から離れていくのに対して、どんどん現実に近くなっていく。二人では生きていけないと分かった時の潔さみたいなものがとても美しい。どんなに詰ってもどんなに憎たらしくても許せなくても、矢崎クレールはずっと碓井ソランジュの妹だったのだと思う。どうでもいいけどわたしは矢崎くんの死ぬ演技が苦手なので(泣くから)今後あんまり死なない方向で頼む。



ソランジュ矢崎×碓井クレール

碓井姉と矢崎妹が本質だけは同じくしているとしたら、こちらはどこまでも似ているように見えて、でも絶対に同じではない二人。

矢崎くんのソランジュにはなんというのかな、執念だとか疑心暗鬼とか世界への警戒心とか、そういうものを見た。多分これはお辞儀をする時に、頭を下げてはいるけど、何かを睨みつけるように目だけがずっと動いてたからだと思う。気味が悪いって言うか蛇みたいだった。碓井くんはもう完全にお辞儀をしてて頭頂部しか見えなかったんだけど、これクレールの時もそうだったのかなぁ。このソランジュは碓井ソランジュのような切迫感というかヒリヒリした緊張感はない代わりに、情けなくて不甲斐なくてどうしようもない。

碓井くんのクレールはソランジュを突き放しているような感じがした。矢崎ソランジュは嫌いで憎たらしくても突き放しきれない、だったのが、碓井くんは最初から割と突き放していた。矢崎クレールはソランジュに近付いたり遠ざかったりするけど、碓井クレールはずっと平行線。伸ばした手が触れ合わない距離をずっと歩いている。そういえば矢崎ソランジュはお茶を飲んだあと僅かでも首が下がったような記憶があるけど、碓井ソランジュは割と首(顔?)が正面のままだった気がした。




女中たち
2015.7.11~7.26
シアタートラム
演出 中屋敷法仁
出演 矢崎広 碓井将大 多岐川裕美